東洋医学


日本で「東洋医学」と言えば古代中国で発生した「中国伝統医学」のことを言います。

「陰陽」「五行」「天人合一」といった古代の自然哲学を

中国各地に自然発生的におこった医療技術と結びつけて確立されたと言われています。

 

日本へは朝鮮半島を経由して伝わりました。

韓国では「韓医学」と呼ばれ鍼灸を中心に発展し、日本では「漢方医学」と呼ばれ漢方治療が発展し、のちに中国に逆輸入されたそうです。

 

色々な療法がありますが中国の各地域の特色を反映した療法が発展しました

東方では魚や塩のとりすぎから皮膚疾患が多く、石器で体を刺激する へん石療法

西部では乳製品や肉を多く食べるために内臓疾患が多く漢方薬療法

南方では多湿で発酵食品を食べる地で痙攣や麻痺の治療として鍼療法

北方では身体を温める灸療法

中部は食物が豊富で労働が少ないために導引や按摩

 

他に次の療法もあります

食材の薬理効果を利用した薬膳治療

体内の気を動かす気功

 

代替療法の代表と言ってもいいくらいよく知られている東洋医学ですが、科学的な証明がなされていないと言う方もいるようです。

私は東洋医学を証明する物差しは「臨床データ」であり、発展途上の「科学」と言う学問では説明しきれないのではないかと思います。

 

また、「神秘的」「不思議」などのイメージが先行し、実際はどのようなものかわからないという人も多いと思います。

歴史を重ねた素晴らしい医療方法をこの機会に少しだけ学んでみてください。

 

ここに書かれているのは治療を受ける方が知っていた方が良い必要最低限の情報です。

一般的な考え方を中心に書いており、流派によっては違う場合もあります。

気になる事項については必ずご自分でよくお調べになってください。

 

医療方法の選択も実践も自己責任で行うものです。

ご自分と家族の健康を人任せにしてはいけません。 


健康の基本

 

人は体に害の少ない良い食べ物と水分を取り、そこから栄養を吸収し、

それを体中に滞りなくめぐらせ、不必要なものを排泄することで健康を保つことができます。

もちろん適度な休息も必要ですし、適度な運動も必要です。

 

普段健康に悪い生活をしているのに、

病気になったら医療機関で治療して「なかったこと」にはできないのです。



治療範囲

自覚症状があるもの

現在は症状がなくても、予防したいもの

治療の方向性

自然治癒力と同じ原因を外へ出す 

得意な治療

身体と心の治療

症状があるけれど病気にまでは至っていない未病の治療

予防や老化防止、美容などにも対応

末期がんや難病患者などの緩和ケア

不得意な治療

外科手術が必要な治療

折れて曲がった骨を治すなど

病理学的検査を必要とする治療

治し方

自然治癒力を正常にし、抵抗力を働かせる

治療の対象

身体と心全体 

症状の出ているのが一部でも全体をみる

問題点

東洋医学専門の「医師」の資格が日本にない

西洋医学の医師が良く理解せずに漢方薬を使うことにより副作用や悪化の可能性がある

一部にしか健康保険が適用されない

西洋医学の医師に比べ専門家が少ない

治療機関が少ない

独自の理論で難しい

副作用がなく安全だと誤解されている

流派によって治療などがまるで違う

不思議などのイメージが先行し、伝わるべき情報が伝わらない

良い点

「未病」も治療対象に入る

西洋医学でも手の施しようがない患者の緩和ケアなどもできる

病気予防、健康維持、老化防止などもできる

不定愁訴など西洋医学で治療できない、あるいは改善しない症状に対応できる

療法がたくさんあり、症状にあわせて柔軟に選べる

日常の中でその知恵を生かすことが出来る

 

 



誤解されやすい点と経験からのアドバイス

自然に逆らわない生き方をするのが東洋医学の教え


ここまでお読みになってずいぶんと難しく感じられた方もいらっしゃるでしょう。

ですが、東洋医学でこれだけおさえればいいという点を私があげるとしたら、それは、

「自然に逆らわない生き方をする」だと思います。

 

自然の摂理を理解するのが陰陽や五行であり、

人間も自然の一部だと認識するのが天神合一だと私は思います。

 

病気の原因はどれも「不自然なもの」であり、治療は自然治癒力を正常に戻すということ。

 

難しいと思わず少しだけその教えに耳を傾けていただけたら、きっと健康で幸せになるヒントが得られると思います。

 

東洋医学的四季の過ごし方

 

中国の古典「黄帝内系(こうていだいけい)」(東洋医学の基礎となっている本)にはそれぞれの季節の過ごし方について次のように書かれています。

これは昼夜の長さや、季節ごとの特徴に合わせた養生法です。

 

春(立春~立夏)=夜更かしをしても良いが、朝は早く起き、庭をゆっくり散歩する。

体を締め付ける服装は避け、身体をのびやかにしてすごすように。

心身ともに活き活きと、活動的な気持ち、あるいは活動するのがいい。

活動しなくて気持ちが沈んだままだと、五行による春に配当する臓器である肝を傷害し、夏になっても汗をかかず冷え性になる

 

夏(立夏~立秋)=夜遅く寝て、朝は早く起きる。

日の長さや暑さを嫌がらず、物事に怒らずに気持ちよく過ごすべきである。

適度に運動して一日1回は発汗し、精神的にも気分を発散する。

(ただし、過度な運動による発汗からの脱水症に注意)

陽気を発散しないと体に熱がこもって五行の夏に該当する心(心臓)を熱の多い心にさらに熱がこもって心臓を悪くします悪くする。

陽気を発散しないとからだ全体も暑く感じます。

そこから冷やしすぎて夏中続けると必ず下痢をします。

夏に発散していないと熱が胸にこもり、秋には肺が乾燥し、痰の少ない乾いた咳をするようになります

 

(立秋~立冬)=早く寝て早く起きる。心を安らかにして、陽気をひそめて過ごす。くよくよせず、精神を落ち着かせて、動きまわって、肺を冷やさないように。秋の冷えにあたり肺を冷やしたりすると肺を損傷したり、冬になって下痢をする

 

冬(立冬~立春)=早く寝て日の出を待って起きる。欲望を控え、体内の陽気を漏らさず、寒気に直接当たらないように。精神を動揺させたり、寒さに当ったり、過労して汗をかいたりすると、五行による冬に配当する臓器である腎を傷害したり、春になって手足が冷えて萎える

 

 

東洋医学は治療のための独立した医療方法です

 

最近では西洋医学の病院でも漢方薬が用いられたりしますが、受け止められ方は「効くかもしれない」「気休め程度」などとネガティブようです。

西洋医学をサポートする程度の、おまじない的にとらえている方も多いようです。

 

ですが、東洋医学は長い歴史だけではなく、きちんとした治療理論、体系を持つ独立した医療方法です。

東洋医学の治療師や中医師などはれっきとした「東洋医学の医師」と言っていいのですが、日本の現在の法律では「東洋医学の医師」と言うと、西洋医学の医師である事が大前提となります。

病院で「漢方外来」「漢方内科」などを開設しているのは基本的に西洋医学の医師です。

 

鍼灸治療にははり師、灸師、按摩マッサージ指圧師などの国家資格があります。

 

東洋医学の診断方法

 

西洋医学では問診の他に検査などをしますが、東洋医学では「四診」と言われる診断方法があります。

四診の情報を元に陰陽論、五行論、蔵相学説、気などから「証」をたてます。

 

詳しくは「東洋医学の診断方法」をご覧ください。

 

流派によってやり方はそれぞれ違うようです。

これらから患者の症状の原因を特定し、「証」をたて、どのような治療方針にするか決めます。

例えば同じ「腹痛」でも、「証」が違えば使う漢方薬などもまるで違います。

 

これらをきちんと行えるのが、東洋医学の治療師です。

専門家を見分ける基準として覚えておくと良いです。

 

西洋医学しか学んでいない医師に漢方薬は使いこなせない筈です

 

日本の法律では西洋医学の医師免許を持っていれば、鍼灸や、漢方など他の医療方法を行うことも出来るとされています。

ですが、上記のように東洋医学は西洋医学に匹敵するくらいに広い知識と経験の上に、易学、哲学まで必要とする医学です。

治癒の方向性など西洋医学と東洋医学とははっきりとした違いがあります。

 

体質によってはかえって体調を悪くする漢方薬もあります。

 

近年はお手軽に扱える製薬会社が製造した漢方エキス製剤がありますが、メーカーによって配合が違うのか味なども明らかに違います。効果も異なってしかるべきです。本当の漢方薬より有効成分は少ないそうです。

詳しくは漢方治療をご参照ください

 

手軽なので利用しやすいと言う利点はありますが、効果が感じられなくてもイコールで漢方薬or東洋医学は効果がないとは結ばないでいただきたいです。

 

治療師によって効果は雲泥の差があります

 

これは西洋医学の医師にも同じことが言えますが、治療師によって手腕の差はかなり違います。

資格を取ったことに胡坐をかいている人と、常に勉強を怠らない人とでは違って当たり前なのです。

流派による違いもありますが、個人の差は大きいと頭に入れておいてください。

それは東洋医学が効果があるかないかではないレベルの話です。

 

最近は「なんちゃって」な東洋医学系の資格もあるようです

 

これまでの記述(基礎用語編参照)などはかなり省略して簡単に、必要最低限のことだけを記載していますが、それでも難しく感じられた方は多いでしょう。

それだけ東洋医学は奥の深いものなのです。

 

だからなのか、最近はお手軽に学べる東洋医学の講座が見受けられます。

重要な部分をどれだけ学ぶのかはわかりませんが、そこを無視して一般の人にお伝えするものもあるようです。

以前は狭き門だった鍼灸治療師なども専門学校などが増え、レベルの低下を心配される声も聞かれます。

 

もちろん、「お手軽な方が良い」と言う方もいらっしゃると思いますが、それはもうすでに東洋医学から離れたものだと認識した方が良いようです。

 

例えば「薬膳治療」は「四診」の結果、「証」をたて、季節や元々の体質なども考慮し、その上で食材と調理法を選択し、そうやって調理されたものを地道に食べることで癒していくものです。

その他には生活習慣などの改善なども指導します。

松の実やクコの実、竜眼肉などの「中華食材」を使えば「薬膳料理」とするものが多いようですが、それは「薬膳」とは違います。 (薬膳治療参照)

 

高いお金を払って講座を受け、中国などに留学したとしても、資格を取ればできる、とは限らないと、治療を受ける側も認識した方が良いかもしれません。