「Ron」

 

その時、私は人口3,000人弱の村に住んでいた。
その日もいつものように娘を保育所に迎えに行った帰りにスーパーで買い物をした。
支払いを済ませレジ袋に買ったものを詰めているとき、
「あれ?店の外に何か来た。」と思った。
それはとても強いエネルギー体だと感じ、
何がいるんだろうと思いつつ、
左手で娘の手を引き、右手にレジ袋を持って外に出た。
そこで予想をはるかに超える情景が目に入り、
スーパーの自動ドアの前で私は立ち尽くした。

 

そこに龍がいた。

 

夕方で、空は晴れ渡り、
ところどころに浮かぶ雲は絵に描いたような作り物めいた雲だった。
明らかに私を待っていたかのようにその空に浮かびこちらを向いていた。
私はあっけにとられて立ち止まり、

大きく強く、暖かなエネルギーが全身を包んでいるのをかんじた。

 

当時の私は生まれつき霊感が強かったにもかかわらず、
そう言った事を否定していた。
何かにつけ霊的な現象に結びつけ人を脅かすばかりの人や、
霊感をこれ見よがしに振りかざす人達にうんざりしていたからだ。
そういった現象が周囲であっても「気のせいだ」と思うことにしていた。

だからその龍もどうにかして気のせいだと思おうとしたのだが、
目の錯覚だなどとは思えないほどリアルな龍だった。

 

それは雲で出来た精巧な彫刻のようで、
以前見た北海道札幌雪祭りの質の高い雪像を思わせた。
全長100メートルほど。
白い雲が夕日に染められたからか美しい珊瑚色をしていた。
うろこの一枚一枚、細いひげ、牙や爪など、一つ一つが美しく、
雲が偶然その形に見えたなどというものではなかった。
何よりその龍が発している「気」がそれがただの雲ではないことを物語っていた。
不思議と怖くなかった。


それでも私は
「いやいやいや、UFOや幽霊はありでも、龍はちょっと・・・。」
と思った。

 

だが、私の心はかってにしゃべりだした。
「いつもありがとう。
私、もう一回結婚して、引っ越すよ。
高い山のある水のきれいなところだよ。
もちろん息子と娘も一緒。
上手くいくかどうか判らないけど、頑張ってみるよ。
いつも本当にありがとう。」と。

 

もちろん夕方のスーパーだから人の出入りが多く、
邪魔なことこの上ない。
こんなにハッキリしたものが空に浮かんでいるのだから
みんな見上げてもよさそうなものだが、誰も見向きもしない。
横にいる娘も「お母さん、どうしたの?帰ろうよ。」と手を引く。
私は娘に、「ほら、あそこに龍に似た形の雲があるでしょ?」と言うのだが、
どうやら娘には見えていなかったようだし、他の人もそうだったのだと思う。

いつまでもその暖かなエネルギーに包まれていたかったが、
仕方なく私は龍に何度も「ありがとう」を言い、車に乗り込んだ。

あの時私の力がもう少し強かったら、龍と会話できたのかもしれない。

 

龍は口に一つ、手に一つ、玉を持っていた。
私はそれが再婚してから生まれた2人の娘なのだと思っている。


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