メニエル病

それは突然だった。
仕事に行こうと着替えをすませ、
立ち上がった時ひどい眩暈に襲われ、
立っていられずに座ったけれど、
その姿勢すら保てずそのまま横になったきり、
起き上がるどころか、頭を動かすことすら出来なかった。
強い吐き気と、
寝たまま自分の体が腹の辺りを中心にぐるぐると
時計の針のように回されているような感覚。
意識はハッキリしているのに、
体が思うようにならない、初めての感覚。
怖かった。怖くて涙が出そうだった。
いつもは置きっぱなしの携帯電話が、
そのときたまたまポケットの中にあり、
家の外で仕事をしているはずの夫に
電話をかけたが聞こえないのか何度かけても出ない。
今度こそ涙が流れ、耳の中に流れ込んだ。
なきながら夫に「眩暈で立てない。助けて。」とメールを打ち、
長く感じたけれどおそらくはほんの数分間と思われる時間を過ごした。
程なくして夫が来たけれど、どうすることも出来ず
そのまま仕事を休んで寝ていることになった。
保育所へ行っている子供のおむかえもの食事もしたくも、
それどころかトイレへ行くことすらかなわなかった。
そのまま6時間以上が経過した頃、
サンショウウオのように床を張ってトイレへ行き、その日は眠った。
次の日、朝の仕事が終わった後で夫が病院へ連れて行ってくれた。
何とか立ち上がれたものの、眩暈がするので目を開けていられない。
頭痛と耳鳴りもひどい。
その日から何日か続けて点滴に通い、
やっと仕事が出来るようになった。

これが私が始めて体験したメニエル病の発作だった。
それからしばらくはまたあのような状態になったらと思うと一人でいるのが怖くなった。
あれから一年近くの間に発作は3回起きている。

仕事が面白くなりだし、意欲に燃え、
その仕事のための勉強サークルに参加して仲間が出来、
図書館から本をかりて勉強を始めた矢先だった。

夫の望む仕事に付き合うだけのつもりが、
楽しくて楽しくて自分なりの夢を持ち、
意欲にあふれていただけに、
くやしくてしかたがない。
これから私は望むいくつかのことをあきらめなければならないだろう。

希望があるとすれば西洋医学で原因不明の難病とされているこの病気も、
東洋医学では治る病気とされていることだ。
いつも通っている鍼灸院で今も治療を続けている。
それと同時にこんな自分の体との付き合い方を模索している毎日である。

この病気は遺伝が関係すると言う説もある。
実家で一緒に暮らしていた私の父方の祖母が昔、
この病気で手術をしているからだ。
自分の努力や、気力、根性ではどうすることも出来ない病気ではあるが、
大好きな祖母とのつながりを感じて、胸がほっこりする自分がいる。


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